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腎不全を患う。移植をする。元気になる。
そんな光景を病院では何百例も見てきた医師が衝撃を受けた。
世界中の移植者が集うスポーツ大会だ。
家族との時間やスポーツを楽しんで輝く姿に
自分のしてきたことに間違いはなかったと確信したと言う。
日本の移植者ももっとスポーツを楽しんで欲しい。
優しい顔に秘められた熱いメッセージを相川医師に語っていただいた。
病院以外で接する移植者の姿に感動
日本の移植者ももっとスポーツを
検査値を目安に自己管理を徹底する
移植者スポーツ大会と移植医療の展望
病院以外で接する移植者の姿に感動

雁瀬
先生は、前回のシドニー大会からチームドクターとして参加されていますが、そのきっかけは何だったのでしょうか。

相川
移植をした担当の患者さんから「世界移植者スポーツ大会があるから、同行医師としてついてきてくれないか」と言われたので「休暇を取って、どんなものか行ってみよう」という気軽なものでした。

雁瀬
このハンガリー大会には、スペインでのヨーロッパ透析移植学会に出られた後にそのまま駆けつけて来られたそうですね。それほど先生を引き付けるものがあるんですね。

相川
そうですね。今まで移植をしてきてもその患者さんを病院の中や外来で診るだけなので、本当に一瞬しか知らなかったんです。ところが、スポーツ大会では外で楽しんだり活躍したりする姿を目の当たりにしてかなりの衝撃を受けました。大会期間中は一緒に過ごしますから、普段の生活や趣味などの実生活を見ることもできて、移植医療に携わる自分に大変プラスになりました。移植した方が身体を動かしてスポーツを楽しみ、練習の成果を発揮しようと努力をし、仲間意識を持ち、楽しく過ごす姿に「自分がやってきた移植医療は間違いじゃなかった」とあらためて感じ、自分の仕事に活気と確信をもたらしてくれましたね。

雁瀬
私も驚きました。寝食を共にし、体力と健康を管理しながらハードスケジュールをこなす皆さんを見て「元気だなー」って。私でさえへとへとになりかけましたから。この大会に出ることがとても励みになっていて、絶えず“再び得た健康な身体とドナーへの感謝”を感じていらっしゃいますね。

相川
病人とか患者さんっていうイメージじゃないですよね。

雁瀬
まったく感じません。「こんなに元気になるの。」という驚きでした。今まで大会中に体調を崩した方はいらっしゃいましたか?
相川
幸いにも医者としての出番はほとんどありませんでした。関節を痛めた人とか薬を飛行機に忘れてきた人のお世話程度かな。会場が離れているので皆さんの様子を把握するのが大変なんですが、今年も無事に終わりました。皆さん自分の健康管理が上手にできていますね。移植後にトラブルさえなければ、本当に健康な人と変わらないということを改めて感じさせられます。
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日本の移植者ももっとスポーツを

雁瀬
実際にスポーツ大会を見ると、日本の選手の積極的な姿もさることながら、体力・技術ともに外国選手のすごさに圧倒されますが、先生はどんな印象をお持ちですか?

相川
外国の選手は逞しいですよね。特にアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、オーストラリアの選手は本格的にスポーツに取り組んでいますね。トレーナーが付いて、競技を楽しむだけではなく記録に挑戦する努力もしています。外国ではスポーツをする人が多く、生活の一部になっているようです。日本は健康な人でさえスポーツが生活の中に溶け込んでいないのに、移植後にスポーツをすることに積極的な医師ばかりではないので、参加することで精一杯のところがありますね。外国選手に比べると、日本選手は仲良く楽しんでいる雰囲気ですが、それでもいいんですよ。

雁瀬
ここで皆さんのお話を聞くと、日本大会を含めて移植者のスポーツ大会に参加したことで、移植前に無縁だったスポーツを楽しむ前向きな生活になって、2年に1度の世界大会に参加することを目標に自己管理を重ねているという方が多いですね。

相川
移植後は、状態さえ良ければスポーツすることに問題はないんです。もちろん、移植直後は免疫抑制剤などの薬が多いので、骨に負担のある幅跳び、高跳び、長距離などの競技は避けてもらって、様子をみながら少しずつたしなんでいくことは大切です。水泳なんかは早い時期からいいですよ。ステロイドが維持量になる術後1年くらいからは、ほとんどの競技が大丈夫。体力が付き、ストレス発散にもなるし、友達ができて精神的にも支えになる。いいじゃないですか。もっと日本の移植者もスポーツを楽しんで欲しいなあ。

雁瀬
ただ、日本では移植の数が少なくてスポーツを推奨できるデータや目安なども無いし、また、移植前の腎不全の時にはスポーツを控えるように指導されますから、スポーツを始めるきっかけがなかなかつかめないのでしょうね。


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検査値を目安に自己管理を徹底する

相川
普通、腎臓の機能はクレアチニンとBUNの値が大まかな目安になります。どちらも身体の中の代謝物質で、腎機能が低下してくると代謝されずに身体の中に蓄積するため高い値を示すようになります。正常値は、腎臓が2つある人でクレアチニンが約0.6〜1.2mg/dl、BUNが約8〜20mg/dlです。血尿が出たり、定期検診でたんぱく尿が出たりすると腎機能の低下が疑われて受診に来ますが、まず、食事療法で蛋白質を控え糖質や脂肪分でカロリーを補い、なるべく透析に入らないように予防します。血圧の高い人には薬などでもコントロールします。

雁瀬
食事療法と薬物療法をもってしても腎機能の悪化が防げなかった時には透析導入になるんですね。

相川
透析への導入は、クレアチニンが約8.0mg/dl、BUNが約80mg/dlを目安にしますが、これは障害者の更生医療を申請する時の値です。そのほかに食欲不振、吐き気、頭痛や高血圧などの尿毒症の症状がある場合には、検査値に頼らず透析に入ることもあります。全体像をみながら判断することが大切ですから。

雁瀬
現在、日本の透析人口は18万人、毎年3万人の方々が透析を始めているそうですが、これは大変な数ですね。

相川
ええ、日本は透析が非常に多いです。技術的にも世界最高のレベルですから、長い間透析でコントロールしている方も多くいます。しかし、透析はすべての尿毒性物質を取り除くことができるわけではないので、5年を過ぎた頃からいろいろな合併症が起きてきます。高血圧や動脈硬化による脳血管障害とか心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患などです。最近では、手首にアミロイドが蓄積して指が動かなかったり握れなくなる手根管症候群も多くなってきました。また、腎臓で産生するエリスロポエチンというホルモンが産生できなくて貧血を起こしたり、ビタミンDの活性化ができないことで骨がもろくなったりしますから、注射や薬で補わなくてはいけません。透析は、腎臓そのものの性能にはかなわないんです。

雁瀬
週に3回、4〜5時間という時間的な拘束も大変な負担だと思います。ところで、移植を希望するかどうかの選択は、いつするのでしょうか。

相川
私は、透析を始める時にその説明とともに移植の話もします。透析を始めるということは患者さんにとって非常にショックなことなので、その時に移植という選択肢を提示することで希望と明るさをもたらすことができると感じています。移植を希望するかどうかは患者さんの意思にまかされていますが、移植が適さない人(他の手術を受けたばかりの人、心臓が弱っていて手術に耐えられない人など)以外には必ずお話します。

雁瀬
希望した人が生体間や献腎などの機会を得られれば移植ができるわけですね。

相川
そうですね。移植を受けた後は、腎臓が1つですからその機能の目安はクレアチニンが約2.0mg/dl以下、BUNが約30mg/dl前後になります。その値を維持できるように、規則正しい生活を指導します。睡眠を充分取る、過食をしない、バランスのいい栄養を摂る、薬をきちんと飲む、移植した臓器を充分に機能させるように水をいっぱい飲む、お酒は適量、たばこはだめ。そんな簡単なことですが、これが一番難しかったりしますよね。

雁瀬
免疫抑制剤さえきちんと服用していれば、普通の人が目指す生活と変わりませんね。移植前の厳しい水分制限・食事制限が無くなった開放感と闘いながら規則正しい生活を心掛けるのも大変かもしれません。しかし、透析の辛さを知っているので二度と戻りたくないという気持ちが自己コントロールの原動力だとおっしゃる方がいました。状態が安定している方で、スポーツをしたいという希望があった時に先生が許可できる目安はありますか?

相川
極端な高血圧がないこと、クレアチニンが約2.5mg/dl以下であること、カリウムが正常値であること、蛋白も多く出ていない(ワンプラス程度の)方であればスポーツをしてもいいと思っています。
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移植者スポーツ大会と移植医療の展望

雁瀬
日本では、移植した人も少ないし、もともとスポーツを楽しんでいる人も少ない、スポーツを積極的に勧める医師も少ない状況です。今後、もっと多くの移植者がスポーツを楽しめるように変わってくるでしょうか?

相川
まず、移植を受けた人が普通の生活ができることを知ってもらったり、このようなスポーツ大会に出てこれだけのことがやれるんだという自信に満ちた姿を見てもらったりして、移植医療は素晴らしいということを一般の皆さんに理解してもらいたいですね。それに、義務教育の段階で臓器提供の意味とかいのちの大切さを考える時間を組み込んでいくことも必要だと思います。

雁瀬
病院内でも移植に積極的ではない医師もいらっしゃるようですから、多くの人に知ってもらう活動も大変ではないですか?

相川
でも、ずいぶん変わりましたよ。脳死での臓器提供が患者さんのいのちを救った事実を見て、世論が変わっていって医療を動かすような…そんな兆候を感じますね。しかし、まだ日本では、小児の脳死が認められていないために事実上禁止されている小児への心臓移植や脳死下の臓器提供には本人の生前の意思が書面で示され、かつ家族の同意が得られた場合にしか成立しない厳しい条件のopting in*など、臓器移植法には多くの問題点を抱えています。移植を受けることに希望を持った人もいましたが、登録してもなかなかその希望をかなえられないのが現状ですね。われわれ移植医も手術するだけではなく、積極的に移植医療を推進する活動を再開する時期にきていると思います。だけど、臓器を提供してもいいと言う人は圧倒的に増えましたよ。移植医療は、すでに世界の先進国で普通の医療として定着しているんです。もし、移植がいいものではないとすれば、各国が否定し排除してきたでしょう。しかし、40年間着実に育ててきて、今でも前向きに取り組んでいる事実が“移植の必要性”を証明しているんではないでしょうか。スポーツ大会もそうですよ。移植を受けた人がスポーツを楽しみ、ドナーに感謝する機会があることが彼らの支えになって続いてきているんです。

雁瀬
一般の人が実際に見たり感じたり考えたりすることは本当に重要なことだと思います。ただ、スポーツ大会も日本大会は1年に1度、世界大会は2年に1度ですから、なかなか知ってもらったり参加してもらう機会が少ないですね。ポスターを貼っていても、実際に行ってみようと思うところまではなかなかいかないようです。次の世界大会は、初めて日本で開催されます。日本でも移植を受けた方が増えて、スポーツができるようになって、多くの人に参加してもらえるといいですね。医療関係者や一般の方々にも是非この姿を知っていただきたいと思います。これからもチームドクターとして、移植を受けられた方々の良き理解者としてご活躍ください。ありがとうございました。
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相川 厚(あいかわ あつし)
1951年東京生まれ。慶応義塾大学医学部卒業後、同大学泌尿器科、防衛医科大学校泌尿器科勤務で腎移植医療に興味を持つ。その後、イギリス王立リバプール大学病院腎移植ユニットに留学して献腎移植の臨床に携わる。91年より東邦大学医学部腎臓学教室講師。

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