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臓器提供における救急看護の役割
 私達の施設は、1998年6月に臓器提供施設の指定を受けました。それ以前よりご家族からの申し出があった場合、心停止後の腎提供、角膜の提供には関わってきましたが、脳死での臓器提供・移植は始まったばかりの医療であり、どのような流れで臓器提供・移植が進んでいくのか、そこに施設としてはどのように対応していけばよいのか、即対策を立てる必要がありました。そこで施設の中に移植対策チームを結成し、看護婦としては救急看護認定看護師2名が任命を受けました。幸いなことに日本臓器移植ネットワーク近畿ブロックセンターのコーディネーターで以前、看護婦として私達と一緒に働いていた方がいたので、『臓器提供・移植に関わる看護婦の役割は何だろう?』ということを話し合うこともできました。

対応のための準備を進めていた1998年の暮れに、あるご家族から脳死での臓器提供の意思を表明したカードの提出を受け、非常に多くのことを学ばせて頂くことになりました。家族というのはこれほどまでに結び付きが強いものであり、また違う考えをもつ個人の集まりなんだということです。

患者さんは40歳代の女性でしたが、未成年の2人のお子さんとの3人暮らしをされていました。近くに親兄弟が住み、食事を一緒にしたり交流は頻回にあったようです。女手ひとつで立派に家事と家計を支え、その生活の中で、「もし自分に何かがあったら、この身体を誰かのお役に立てたい。」と話しをされ、臓器提供意思表示カードに脳死での臓器提供の意思を示されていました。そして突然の事故・・・。未成年の子供達はその直後に脳死になる可能性が高いと説明を受けることになったのです。忙しさの中でも手づくりのお料理と笑顔を絶やさなかった母親についてのあまりに残酷な宣告。そこで受けた衝撃は計りしれません。それからは二人の子供と親類家族にとって葛藤の日々であり、亡くなられていく患者さんとのお別れの日々が始まりました。

 救命センターに運ばれた次の日には、同意のサインをされていたお子さんから「母の意思です。」とカードが提出され、他の方達の中でも「本人の意思を叶えてあげたい。」という言葉が聞かれました。しかしもう一人のお子さんは、まだ温かい母親と“死”が結び付けて考えられない状態であり、その反応も自然なものだと考えられました。“家族の死”というのは最も強い衝撃であり、家族が亡くなっていくという事実を認識していく過程に違いがあるのは当然なことなのです。この患者さんの場合、入院して数日間は身体の状態が不安定であり、話し合われた結果、心停止後に臓器を提供されることになりました。しかしその数日後、患者さんの状態が脳死からの臓器提供も可能な状況となりました。そこで改めてご家族の中で話し合いが持たれた結果、心停止後に臓器を提供するということを再決断されました。このようにカードに示された意思と違う決断の場合、患者さんの意思に同意されていた家族は、意思を叶えられなかったのではと悩んでいる可能性があり、また同意されなかった家族は同意できなかったからこその悩みがあるかもしれません。でもこのご家族を通し、私は改めて家族である患者さんを本当に愛しているから悩むんだという当り前の事実を実感として知ることができました。また、家族がどのような結論を出されたとしても、一生懸命考えて家族が出された結果こそが最善の結論であり、亡くなっていかれる患者さんも納得される結論であると考えるようになりました。

“脳死”は新たな死の概念であり、その言葉の意味を十分理解している人は、今の日本には少ないと考えられます。従来の死に比べ、まだ温かく、心臓も動いた状態を人の死として認めるかどうかということについても、様々な考え方があるでしょう。ましてや家族の場合、脳死は人の死として認めた時が愛する家族の死の時となってしまうわけであり、患者の意思は叶えたいけれど、でも家族を失いたくないという複雑な思いが存在すると思います。今後少しずつ時は流れ、脳死についての考え方、臓器提供、移植についての考え方も変化していくかも知れません。その中でご家族に関わっていく私達看護婦は、常にご家族を支援する立場であることを認識して感情を受け止める姿勢で接すること、また臓器提供、移植に関するあらゆる不安や疑問を解決して悔いのない決断をしていただけるように医師やコーディネーターとともに関わっていくことが重要な役割だと考えています。

●信頼できる存在であると認識していただけるよう関わる
1) 自分たちの立場を名乗り、救急センターという家族にとって異次元の空間のなかで,臓器提供、移植に関すること,その他のことにおいても自分たちは常に家族の方を支援する心構えであることを意思表示した。
2) 訪床する機会を多く持ち,家族の言葉に共感する態度で接した。
●移植,および現在の患者さんの状況を正しく理解していただく
医師,および移植コーディネータの説明時には極力同席し、説明内容と家族の反応を観察し記録した。説明後、内容を理解できているかどうかを確認し、必要時補足説明をおこなった。
●付き添い中の家族への援助
「少しでも患者さんのそばを離れたくない。」と病院を生活の場としている家族の方の、睡眠や清潔に対する環境を,看護助手との協力のもと整備した。
●感情を表出できるよう援助する
患者さんの状態の変化や、臓器提供に関しての説明がある度、また時間の経過にともなって家族の方の動揺、不安、時に怒りの感情がみられたが、自分たちは常にそれらを聞く意思があることを示した。そのそれぞれの感情に共感し、感情を表出していただけるよう努力した。
●医師,および移植コーディネーターとの橋渡しをする(時に家族の代弁者となる)
家族の方が医師、コーディネーターに望んでいることを把握し、伝達した。

●家族関係を理解し,キーパーソンが誰かを把握する
臓器提供意思表示カードに同意のサインをされた家族は誰か、患者さんに最も近く状況をタイムリーに把握してもらわなければならない家族は誰か、そして実際に状況を理解して家族の考えをまとめているのは誰かを理解していくよう努めた。
●家族個々の考えを把握する
臓器提供を決定するには関わる家族全員の同意が必要である。家族の方が、今どのような考えを持たれているのかを本人に直接、または私たちと信頼関係がもてはじめた他の家族から間接的に確認した。
●医師,および移植コーディネーターへの情報提供および情報交換
家族の方の状況をより正しく理解するため、各立場ごとに得た情報を密に交換した。
●看護スタッフへの情報提供および情報交換
日常の直接ケアをおこなう看護スタッフから自分たちが接することのできない時間帯の情報収集と、私たちが家族の方と直接接することで得た情報、および臓器提供についての経過を情報提供し、看護婦全員で家族を支援する体制づくりに努めた。
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