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[特集]愛する家族の臓器提供を決意して


 脳神経外科の専門医であった夫・岩田隆信は、突然の激しい頭痛で自分の体の異変に気づき、その後の検査で非常に悪性の脳腫瘍・グリオブラストーマであることが判明しました。自分自身でMRIのフィルムに病気を見つけたその日から、意識が無くなる最後の日まで、病気を真正面から見つめ、最終的には避けられない死をも見つめながら、毎日を精一杯生きました。

時には、絶望感に苛まれたり、うつ状態に陥ったこともありました。しかし「自分にできること、しなければならないこと」を求め続け、私達家族に沢山の思い出と、『医者が末期がん患者になってわかったこと』(中経出版・角川文庫)正・続二冊の本を残してくれました。

家族としては、何とか助かる方法はないのだろうか、と祈るような気持でしたが、本人が本の中で「私が間もなく脳死の状態になるのは、疑いようのない事実です。」と書いている通り、3度の手術を乗り越えながらも、少しずつ、しかし確実に死に向かっていることは否定のしようがありませんでした。そんな中、妻として、愛する夫にしてあげられることと言ったら、夫の意思を貫かせてあげること、本人のやりたいことを、最大限できるように手助けすることだけだったのです。


 7ヶ月間の自宅療養を経て、最後の入院をした時には、もう、物言わぬ人になっていました。しかし、「医者として患者さんを救うことができなくなった今、生きることを止めた自分の肉体が何人かの患者さんを救うことができるなら」と言っていた、夫の最後の願いをかなえようと、入院先の先生方を通じて、日本臓器移植ネットワークに連絡を取り、できる限りの臓器・組織を提供させていただけるようにお願いしました。

平成10年12月某日午後3時21分、最後の息をフーッと吐くと、心電図が一直線になりました。その数分後には手術室に運ばれ、腎臓、心臓弁、血管、気管、皮膚、眼球が摘出されました。
「臓器移植で救われる人がいる限り、それは行われるべきだ」
そう言っていた夫の言葉を、私はごく自然に受け止め、手術室に送り出したのでした。

夜遅くになって、霊安室に帰ってきた夫の姿を見た時、それまでずっと我慢していた涙を押さえることができませんでした。最後の最後まで、医師として「自分にできること」を求め続けた夫の、立派な姿でした。

2年近く、一緒に病気と闘い続けた夫が逝ってしまったことは、とても悲しいのですが、「これで妻としての務めを果たし終えることができた」と、ほっとしたような気持になったのも事実でした。
「どうもありがとうございました。」
私は、隆信さんの最後の願いをかなえるために、全力を尽くしてくださったスタッフの方々全員に、心からお礼を言いました。入院先では、医師も、看護婦さんも、手術室も、今現在病気と闘っている患者さんのために、常にぎりぎりの状態でフル活動している事は、重々承知しています。そのような状況でも、快く提供を受け入れていただいたことに、とても感謝しています。


 そして、夫の肉体の一部が、今も、どこかで誰かのお役に立っているかと思うと、愛する者を失った寂しさを、少し癒してくれるような気がします。それが、今どこで、誰のお役に立っているかを知りたいとは思いません。その方が感謝しているかどうか、周りの人がどう思うか、そんな事には関係なく、命が受け継がれた、という事実そのものに慰められるような気がするのです。

自分や愛する家族が死に至る病にかかり、移植を受けなければ必ず死に至るが、移植を受ければ助かるかもしれないという場合、「生きたい」「生きていて欲しい」と思うのは当然です。夫は打つ手がなかったのだから仕方がありませんが、もし脳腫瘍ではなく、移植の可能性が残されていたら、私は迷わずそれを望んだと思うのです。だから、ドナー側になった時には、提供すべきだと考えます。

移植医療、特に脳死段階での移植については、まだいろいろな問題が残っています。しかし、提供の意思を持つ患者さんが現れた時に、その意思を無にすることなく、実現できるような環境が早く整うことを望んでいます。夫は、巨額の費用を投じて海外に移植を受けに行く患者さんの記事を目にするたびに、「それは国内で行われるべきだ」と言っていました。

夫が亡くなった後、私は意思表示カードに臓器提供の意思を記入し、娘に見せました。まだ幼い娘は、責任能力がないので、家族の欄に署名はありませんが、「いいよ。燃やしちゃうのは、もったいないもんね」と、言ってくれています。私は、本人の意思で遺体にメスを入れるのは、葬祭場で煙になるのと同じくらい神聖なことだと思うのです。
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ドナーファミリーを癒して欲しい
命が受け継がれた その事実に慰められる-岩田規子
第2回ドナーファミリーの集い

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