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[特集]子供たちとともに
 これまで、心臓移植が必要な子供たち7人を日本からアメリカに送り、移植前の重症心不全のときから移植後まで診察してきました。子供たちに対する心臓移植前後のケアと子どもの心臓移植が有効な治療法として確立しているアメリカの現状を報告します。
 子供の心移植は、1967年にKantrowitzが肺動脈閉鎖兼心室中隔欠損症の生後19日の小児に行なわれたのが最初です。この症例は残念ながら6時間で死亡しましたが、その後、成人心移植の成績が臨床的に安定してきた1980年代後半以降に飛躍的に増加しました。

  世界の統計では、1998年末までに4,178件の心移植が208センターで行なわれ、最近の年間実施例数は350件前後です。このように諸外国においては、子供に対する心移植も一治療法として定着しています。

  ところで、日本では1000人あたり8人の小児が心臓病を患っているといわれています。‘98年の『全国心臓病の子供を守る会』の推計では心臓病の子供のうち、およそ4%に移植が必要なのではないかといわれています。日本で心移植ができなかったため、海外に渡った15才未満の子供たちは24人。そのうち、19人が移植しています(2000年3月末)。今も、海外に渡る子供たちは後を絶ちません。

  子供たちの心移植を日本でも実現させるために、6歳未満の小児の脳死判定基準や臓器提供意思表示の有効年齢の見直しが望まれています。
 小児疾患全てに当てはまることですが、子供の心移植についても成長発達段階に沿って乳幼児期、学童期、思春期に分けて考えていく必要があります。

  乳幼児期においては、移植の意思決定や移植後の管理は全て親に委ねられます。私が担当した例で、ちょうど1歳のときに心移植を受けた男児がいますが、1歳という年齢は、人間としての習慣や自我を芽生えさせる準備の時期でもあります。生後直ぐに他の心臓手術を受けた場合も同じですが、移植後は自分の置かれていた状況をそのまま受け入れています。これは本人にとっては心移植を受けた状態で生まれてきたということと同じで、小学3年生の現在では、内服薬の服用は日課であり、問題なく自分で行っています。

  ところで、乳幼児期においては、移植の意思決定がすべて親にゆだねられるため、移植後にその子に何か問題が生じると、親自身が自責の念にかられる場合がまれにあります。欧米でもこの点について論議されることがしばしばあります。

  学童期ともなれば患者自身に判断力が備わってきますが、理解の程度は個々で異なっており、それぞれの成長段階に応じた細かな判断をしながら接していく必要があります。移植の最終決定をするのはやはり親になりますが、学童期の子供に対しては、本人に対して医師から病状や手術の必要性について説明できます。「移植」という言葉そのものをまだ習っていない時期ですから、例えば「今もっている心臓が悪いから新しい心臓に替えてもらう。」など平易な言葉やイラストを使って説明します。米国ユタ大学の小児心移植チームでも絵本等を使って説明していました。実際、子供自身は親が心配するほど動揺はしませんし、むしろ積極的に自分の病気のことを知ろうとします。移植後の生活上の細かな注意点や拒絶反応についても理解でき、大切な服薬指導も受け入れていました。私自身の経験からは、理解力の備わるこの時期に、子供だからといって十分な説明をせず親や主治医の一方的な判断で物事を進めていくことは、その後の信頼関係を確立させていくうえで困難を生じさせます。子供なりの人格を十分認めて対応すべきです。

  思春期に入れば、ほぼ成人と同等の理解力はあると考えてよいでしょう。ただし精神的な発達が未熟である場合も多く、その点に配慮が必要です。大人と同等だからと判断して本人任せにしないで暖かい愛情をもって接する必要があります。決して一人きりの精神状態に置かないことが大切です。
 成人では自分が生きていくための心移植に対して、感謝の念と同時に「一人の人が亡くなっている。」という感情を錯綜してしまい複雑な心情で毎日を生活していく人もあるのに対し、子供では、移植に対し成人より前向きな反応を示すように思われます。子供たちは、移植の後に脳死者から心臓の提供を受けたことを知っていきますが、ある患者は、その後に「自分の移植前の心臓を見たい」とか「心臓をくれた人にお礼を言いたい」という言動がみられます。

  もちろん移植後明るい反応ばかりを示すわけではありません。移植後は拒絶反応や感染症予防のために数カ月から長いと1年位は休学し大人に囲まれた生活を強いられることもあります。それに加え頻回な検査や多少の生活規制により、周囲の元気な子供とは少々異なった日常生活を送らなければならないこともあり、それによるストレスは生じてくるようです。移植後に「性格が悪くなった」と親が感じた例もありましたが、これは親の方が子供の移植後の生活とストレスを十分に認識していれば大きな問題や誤解は生じてこないと思われます。もちろん移植手術後の厳しい管理が少なくなればこれらの問題はなくなってきます。
 心移植後の注意点は、やはり拒絶反応の治療や感染症の予防です。確実な内服薬の服用と、手洗いやうがいの励行などの基本的な衛生管理、そして体力の維持増進のための栄養管理を怠ってはいけません。内服薬の指導では、薬を指定された時刻に確実に服用することと簡単な副作用も知っておく必要があります。予防接種については、幼稚園、学校側に対しても十分な説明をしておく必要があります。移植後は生ワクチンの摂取は禁忌ですから日本におけるポリオワクチンは受けられないことになります。

  ここで学童期、思春期における移植後の問題に学校生活に戻ってからの“いじめ”があります。「人の心臓をもらったような子と遊ばない。」とか、免疫抑制剤の副作用を「何でそんなに毛が濃いの。真ん丸顔なの。」などと嘲笑されたりして、精神的ショックを受ける子供もいました。これらの問題については、事前に学校側に移植について十分説明して理解を得ておく必要があります。

  思春期は反抗期ともなる時期であり、そのために内服薬の服用等がおろそかになる危険性もあります。この時期は精神的不安定さもあるゆえに、本人の訴えなどに十分耳を傾けていく事が大切でしょう。
 移植を受けた患者や家族はそれぞれに生活上の不安を多く抱えていますが、日本では相談する相手や環境が充実していないのが現状です。欧米の移植外来では、移植者やその家族が診察前や後に移植コーディネーターまたはソーシャルワーカーと話ができる時間が設けられており、医師に直接話しにくい心の悩み等についてもカウンセリングがなされ、その患者の医療内容にフィードバックできるシステムになっています。

  現在、東京には心移植が必要な患者と家族が安心して治療に専念できる環境を作るための『心移植サポート』事務局があり、心臓移植の普及・啓発や専門的な情報の収集、移植者や家族のサポートをしています。また、移植を受けた方が定期的に会って互いに交流を深め、励まし合う支援もしています。

  日本でも臓器を提供する側の移植コーディネーターは少しずつ育成されてきていますが、看護婦(士)の方々の中から移植患者側のレシピエントコーディネーターを育成し、子供たちを含めて移植を受けた患者や家族が安心して過ごせるケアが必要だと感じています。

(心移植サポート事務局:03―5976―3300)
 アメリカでは、小児心移植は手術あるいは内科的治療では治せない心臓病の子供たちへの有効な治療方法として確立しています。'93年におよそ90の病院で395件の移植が行われたのが最も多く、その後少し減少していますが、これは提供される臓器数が少し減っているためです。

  移植が必要な子供たちは、1歳未満では73.5%が左心室の発育不全などの先天性心疾患(生まれつきの病気)です。1歳から10歳では52.4%が心臓の筋肉が傷む心筋症で、11歳から17歳ではその心筋症がおよそ65%も占めるようになります。このように、移植する時期は先天性心疾患があるかどうかで違います。移植の登録は必要な検査などを行った後にしますが、急速に悪化した時には順位を上げて待機します。栄養不良や肝臓などへの悪影響が出ないうちに移植したほうが移植後の回復がいいので、待機中は栄養を摂り体重の維持に注意します。

  今まで4000例以上の小児心移植が行われましたが、全体の1年生存率は75%、7年生存率は60%で、特に'95年以降の成績は非常に良く、1年生存率は80%、7年生存率は75%に向上しています。移植後は、ほとんどの子供たちが免疫抑制剤などの薬を飲んで定期的に検査をするだけで、普通の学校生活をおくっています。また、移植前に劣っていた成長もきわめて正常に戻っています。

  心移植は、それ以外の方法では治療法が無い子供たちの延命とQOL(生活の質)向上に貢献しています。

  (「心移植について考えよう2000」でのRobert Shaddy医師の講演から)
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移植を受けた子供と家族
移植が必要な子供たち-布田伸一
移植と取り組む子供たち-有村大知・高木雅代
移植を学ぶ子供たち-曽根若菜

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